quadratureのシニカル日記

イヤなことは壺の中に

ダイエー


郷里にダイエーが出来たのはもう三十数年前のことだ。スーパーというイメージは全くなく、デパートだった。電化製品から、家庭用品、衣料、食品、食料、すべて市内でトップクラスの品揃えだったと思う。
家庭用品売り場にはありとあらゆる大きさと形のタッパーウェアがあった。電子パーツ入れにいろいろ組み合わせた。電子パーツ売り場に座り込んでICや抵抗やコンデンサを選んだ。工具もハンダこてから万力まで揃えた。精密加工用として、0.8ミリのドリルも買った。1ミリ以下のドリルはダイエーで初めて見た。スリーヘッドで、スリーモータのフェザータッチスイッチのカセットデッキも初めて見た。指先でスイッチを触れるだけでテープが廻りだした。
赤と白の缶に入ったキャンベルのスープを初めて見た。購入した。世の中こんなにうまいものがあるか、と思った。ダイエーが進出する以前にも、市内の中心部に行けば明治屋で取り扱っていたはずだ。でも頻繁に購入するようになったのはダイエーのおかげだった。
プレーンのシリアルの大箱を見つけた。よその店では甘く味付けされた、小箱のコーンフレークしか売ってなかった。ベーコンをかりかりに焼いて、100%オレンジジュースと、シリアルに牛乳をかけた朝食で、アメリカンを気取った。こういう食事だと食後も全く眠くならないので受験生にはありがたかった。
洋服も下着も、これでもかこれでもか、という品揃えだった。カラーのワイシャツやシャツやパンツがあるのを初めてみたのもダイエーだった。毎週車で出かけていくつかの段ボールに買い物を入れて帰ってくるのが楽しみの一つになった。

それから郷里を離れ、9年ほど東京に居た。それから郷里とは別の地方へ就職のため引っ越した。郷里よりも一回り大きな町だった。ダイエーの規模は同じくらいだった。中身は全然違っていた。見回してもつまらなかった。安い品物だけが並んでいた。部屋のカーテンを買おうとして売り場に行って尋ねると、立ち話をしていた店員はちょっとだけ振り向いて「待って」と言っただけで立ち話を止めなかった。キャンベルのスープは置いてなかった。